牧師からあなたへのメッセージ     



Short Message 3 ベアマンお爺さんの愛

 アメリカのワシントン・スクェアの西に、グリニッジ・ヴィレッジがありました。古いアパートがいくつも建っており、安い家賃を求めて、絵描きさん達が集ってきて、いつしか芸術家の村が出来上がりました。
 レンガづくりのアパートの三階に、年若いスウとジョアンナが一緒に住んで共同のアトリエを持っていました。二人とも仲良く、趣味も一致しています。
 冬がやって来ました。とてもひどい寒さがこの芸術家の村を襲いました。その寒さの中で、ジョアンナが肺炎を患ってしまったのです。ある朝、お医者さんはスウに言いました。「助かる見込みは無いですな。あなたの友人はもう治らないと自分で決め込んでいて、死ぬことばかり考えている。誰か恋人でもいるといいんだが。」「いえ、先生、彼女には恋人はいません。」「わたしの力の及ぶ限り、面倒を見るが、生きる気力が起こるように助けてやって欲しい」と言って帰ってゆきました。
 スウがジョアンナの寝ている部屋に入ると、ジョアンナは窓の外を眺めながら言いました。「12…11…10…9…」ジョアンナは6メートルばかり離れた隣のレンガ造りのアパートの壁に一本の古い蔦のつるが絡み付いていて、壁の半ばまで延びている枝の葉っぱを数えていたのでした。冷たい風がその枝の殆んどの葉を落としてしまいました。「三日前にはまだ100ぐらいあったのに、今はもう… ああ、また落ちた。あと五つしか残っていないわ。」「何が五つなの。ねえ、私にも教えてよ。」「隣りのアパートの壁にからみついた蔦のつるについている葉っぱよ。最後の一枚が落ちたら、私死ぬのよ。お医者さんもそうおっしゃらなかった?」
 スウは叱り付けるように言いました。「そんな馬鹿げたこと言うもんじゃないわ。あの葉っぱとあなたの病気とどんな関係があるの?お医者さんはあなたの気持ち次第で良くなるとおっしゃったわ。さあ、元気を出してスープを飲まない?」「スープは欲しくないわ。ああ、あと四枚だけ、暗くならないうちに全部落ちるのを見たいわ。そうしたら、私も死ぬのよ…。」スウは言いました。「ジョアンナ、私が絵を書き終えるまで目をつぶって、窓の外は見ないと約束してくれない?しばらく眠りなさいね。」そう言ってカーテンを閉めると、二階に住んでいるベアマンお爺さんにモデルになってもらうよう頼みに行きました。
 ベアマンお爺さんは、絵描き希望でしたが夢が叶わず、酒に溺れ、絵描きたちのモデルになってやっと生活しているお爺さんでした。スウのモデルをしながら、スウからジョアンナのことを聞きました。「なんじゃと?あの蔓の葉っぱが全部落ちたら自分も死ぬなんて言うやつは、どの世界を捜してもいない。」「すっかり衰弱して、熱のため気持ちが病的になっているんだと思うわ」とスウが答えました。
 次の日、ジョアンナはスウに頼みました。「カーテンを開けてちょうだい。」スウは開けました。ところがどうでしょう。風と雨の夜が過ぎて蔓の葉っぱは全部落ちてしまったと思ったのに、一枚の葉だけが、まだ落ちていなかったのです。ジョアンナは最後の一枚は今日中に落ちてしまうと思っていました。しかし、次の日も葉っぱは落ちなかったのです。ジョアンナはスウに言いました。「私は悪かったわ。死にたいという私を諌めるために、神さまが最後の一枚を残しておいて下さったのだわ。死にたいと思うなんて罰当たりね。さあ、スープをちょうだい。それからミルクにぶどう酒を入れたものもね。」スープやミルクを飲んだジョアンナは言いました。「私元気が出てきたみたい。癒されたら、ナポリの湾を描いてみたいわ。」
 お医者さんが来て、診察しました。「あなたの看病がよかったんだね。この調子なら治るよ。ところで、二階にも患者がいてね。ベアマンという男なんだ。彼は肺炎を起こしてだいぶ悪い。入院させようと思っている。」次の日、往診に来たお医者さんはジョアンナに言いました。「もう大丈夫だ。あとは栄養を摂るだけだ。」
 その翌日、スウはジョアンナに「あなたに話したいことがあるの。」「ベアマンお爺さんが昨日、病院で亡くなったのよ。あの風が強く吹いていた晩遅く、靴も服もびしょぬれで氷みたいに冷え切って帰ってきたんですって。その晩にベアマンサンはどこに行っていたのか、誰も知らなかったの。でもあとで、ひきずっていった梯子と闇を照らすカンテラと散らばった絵筆と絵の具が、あの蔦の壁の下に見つかったの。ジョアンナ、あの壁を見てごらんなさいよ。あの壁の上の一枚の葉っぱは風が吹いても少しも動かないし、ひらひらと揺れもしないわね。変だと思わなかった?あれはベアマンお爺さんの傑作品よ!最後の一枚が落ちた夜、あのお爺さんがあなたに生きて欲しいと願ってあの壁に描いたのよ!」

 この話はO.ヘンリーの短編集の中の一つ、The Last Leaf(「最後の一葉」)と名づけられた作品の話です。ベアマンお爺さんは老い先短い自分の命を年若いジョアンナのために捧げたのです。夜風と雨の強い寒い夜に、お爺さんはジョアンナのために梯子に登り、カンテラで照らしながら壁に、最後の一枚の葉っぱを蔦のつるの枝に描いたのです。すっかり凍えて肺炎になり、お爺さんは死んだのです。しかし、ジョアンナはそれと知らず生きる力を得て元気になりました。お爺さんの愛の力は、ジョアンナの体に命の力を与えたのです。
 「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」とキリスト・イエスは言われました(ヨハネによる福音書15章13節)。友のために自分の命を捨てることは犠牲的愛を意味します。ベアマンお爺さんの死は愛ゆえの犠牲的死でした。使徒パウロは語ります。「わたしたちがまだ弱かったころ、キリストは、時いたって、不信心な者のために死んでくださったのである。…まだ罪人であった時、わたしたちのためにキリストが死んで下さったことによって、神はわたしたちに対する愛を示されたのである」(ローマの信徒への手紙5章6,8節)。キリストの死は私たちの罪を贖い、闇の力から解放されて神の光の中に生きる命を与えるための犠牲の死であったのです。
「神は、その独り子を賜わるほどに、この世(私たち)を愛してくださった。それは御子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。」(ヨハネ3章16節)













 

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