牧師からあなたへのメッセージ     



Short Message 25 人間の意思の弱さについて〜福沢諭吉の場合〜

 福沢諭吉(1834〜1901)は、緒方洪庵に蘭学を学び、江戸に洋学塾を開きます。江戸幕府の使節団に随行して3回欧米に渡り、維新後の1868年(慶応4年)に塾を慶応義塾に改め、独立自尊と実学を重んじ、『学問のすすめ』『西洋事情』『文明論の概要』等を書いて国民意識を啓発し、人材の養成に努めました。1898年(明治31年)に出版した『福翁自伝』に中で自分の意思の弱さをユーモラスに描いていますので、その内容を紹介します。註@

 緒方塾で学問修行に励んでいた時、酒を飲んで良いことは少しも無いと悟り、禁酒を実行し始めた。すると。それが塾中の評判となり、十日は持つまいなどと皆がひやかすので、十五日間頑張っていると、親友の高橋がやってきて、「君の辛抱は偉い。見上げたものだ。しかし、悪い習慣でも急に断つのは良くない。それは長続きしないから、酒の代わりになる楽しみを求めろ。煙草が良い。」と勧めた。

 ところが、それまで大の煙草嫌いで、「そんな無益な、不衛生で訳の分からぬものをのむ奴の気がしれない。俺のそばでのむな」と悪態をついていたので、これから始めるのは、どうも極まりが悪い。しかし、高橋君の説ももっともだから、一つやってみようと試みると、仲間はよってたかって、「今度はあいつを煙草のみにしてやろう」とキセルをくれたり、いろいろな煙草を紹介してくれる。やがて、二週間するうちに、酒は飲まなかったが、煙草が次第にうまく感じるようになってきた。一カ月たつと煙草のみになった。

 やがて、酒屋を見て、一杯だと思って飲んだら、もうやめられない。三合飲み、翌日は五合と、元通りになってしまった。煙草を断とうと思っても、これも出来ず、酒タバコの両刀使いとなり、六十歳に至るまで、酒のために大損害を受けてきた。

 註@ 福沢諭吉著、『福翁自伝』、角川学芸出版(角川ソフィア文庫)、2008年。
    

 













 

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