牧師からあなたへのメッセージ     



Short Message 18

 高見沢順子と小林秀雄との対話

 高見沢順子氏は劇作家、評論家でもあるプロテスタント・クリスチャンです。東京女子大学を卒業後、太平洋戦争中に漫画「のらくろ」で有名になった漫画作家、田川水泡氏と結婚しました。戦後、ドラマや随筆を書き始め、著書として『兄小林秀雄』、『愛の重さ』、『生きること生かされること』など多数出版しておられます。実兄が優れた評論を書いて、日本知識人に名を知られた小林秀雄氏です。今日は高見沢順子氏が『兄 小林秀雄との対話』の中に書かれている興味深い文章を紹介します。註@

 佐古純一郎さん(註A)は、兄とわたしとの共通知人として、自然と話のきっかけになりがちである。ある日もわたしは言った。「佐古さんはね、原稿を書くとき、机の上に原稿用紙を広げておいてから、必ずお祈りするんですって。それから、自分が書いた本が今日出版されるという日も、必ずお祈りするって言っている。わたしにはなかなか出来ないわ。」

 「できない?なぜだい。“絶えず祈れ”って聖書にもあるじゃないか。そんなこと当りまえのことだ。自分でなにもかも出来ると思ったら間違いだ。いくら一生懸命になったって限界がある。それに、そのときの体の調子や環境のために、持てる力だって出し切れないときことがいくらでもある。限りない力を持つ神に対して、祈って力を与えてもらうことは大切なことではないか。」

 わたしはびっくりして、黙って兄を見つめた。兄からこんなことを聴こうとは思いもかけなかった。わたしの浅はかさという他はなかった。良く考えると、前から兄はこういう信仰的な考えやこれと同じような考えを、いろいろな場所で言ったり、書いているような気がする。

 註@ 高見沢順子著『兄 小林秀雄との対話』(講談社、1968年)、192−193頁。
 註A 佐古純一郎氏は少年時代より死について深く考え、浄土真宗、一灯園等を遍歴したのち、1943年創元社に入社し、小林秀雄氏に知遇を得、指導を受ける。1948年、日本基督教団中渋谷教会で洗礼を受け、1951年に『評論集・純粋の探求』を出版後、文芸評論家として活躍。     多数の著作がある。後に中渋谷教会の牧師に招聘され、福音宣教に従事しながら文筆活動を続け、後に二松学舎大学教授、学長に就任。

 















 

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